『ROMA』を見てきました

上映中の映画、『ROMA』を見るため、地元ちかくの映画館、イオンシネマ守谷へ行ってまいりました。

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先日のアカデミーで監督賞など3部門を受賞したことで知られるこの作品ですが、それ以前には、配給元がネットフリックスで劇場での上映がほとんどないことから、カンヌ国際映画祭へのエントリーを拒否されたことでも話題になりましたね。
僕は当初そのタイトルから、てっきり古代ローマのことをえがいたベン・ハー的な作品かと思っていました。

カンヌへのエントリー拒否のあと、すっかりこの映画のことは忘れていたんですが、ちょうどアカデミーへのエントリーのころに、1970年代のメキシコシティのローマ地区のことをえがいた作品だということがわかり、急に興味がわきました。
(なにせメキシコシティは僕の第2の故郷ですから)
今回の受賞を機に、僕の近所でも上映されることが決まり、いい機会と行ってくることにしました。

監督のアルフォンソ・キュアロンは『ゼロ・グラビティ』などのハリウッド大作でも知られますが、今回の作品は自らの幼少時代にモチーフをとった、非常にパーソナルな作品とのことです。
その個人的すぎる題材、全編モノクロ、作品中で話されるのはほとんどスペイン語、無名の俳優たち、と「売れない映画」の要素をすべて兼ね備えたような本作、当初は配給会社がなかなか決まらなかったそうです。
それがストリーミング配信の会社であるネットフリックス(Netflix)による配給に決まったことは、前述のカンヌでのエントリー拒否のような問題を引きおこしました。

僕自身はハリウッド大作はほとんど見ない
(スター・ウォーズなどをのぞく)
のですが、いつも映画館でマーベルなどの大手レーベルのヒーローものやSFアクション大作の予告編を見るにつけ、
「いつも同じようなのをやってるなあ」
と思っていました。

おそらく「ヒット映画の法則」のようなものにのっとって映画を撮ると、どうしても似たような感じになってしまうのでしょう。
グーグルなどのITプラットフォーム全盛のいま、ビッグデータを使えば「売れる映画」の法則はすぐにわかってしまいます。
ですが、それのみに基づいて本当に「良い映画」ができるのでしょうか?

今回のキュアロンの作品のように「売れる映画」の法則とは真逆の映画を、おなじくネット時代の申し子であるネットフリックスが自由に撮らせてくれたというのは逆説的ではありますが、今後大規模ロードショーではペイしないような作品が、ネット配信によって日の目を見ることが増えるなら、それはそれで良いことなのではないでしょうか。


さて、映画の内容ですが・・・。
(以下ネタバレあり)

映画は主人公クレオ(メキシコシティの富裕な家で召使としてはたらく先住民の女性)が、雇われている家の床を掃除するシーンではじまります。
といってもクレオ本人は映像には出てこず、タイルの床をこするブラシと、洗剤の泡、それを流す水がひたすら映されるだけです。
その単純な映像のみで、クレオの勤勉さ、その生活苦など、この後の映画の重要な要素が暗示される、きわめてよく出来たオープニングになっていると思います。

そこからわれわれは、この映画のモノクロ映像の美しさにどんどん引きこまれていきます。
メキシコシティの街並みをうつす映像で僕は、生まれてはじめておとずれた海外の都市であるこの街の、香辛料と車の排気ガスの混じった匂い、標高2000メートルの空気のうすさ、車のクラクションや早口のスペイン語の喧噪をおもいだし、なんともいえないノスタルジックな気分になるのでした。

それにしてもクズ男ばかり出てきます。
クレオの恋人(?)フェルミンは彼女の妊娠を知ると姿を消し、クレオが彼の居場所をつきとめてお腹の子について問いただすと、得意の武術の型を見せて脅す始末。

クレオの雇い主、ソフィアの夫で医師のアントニオは、カナダで学会に参加するとウソをつき、愛人とアカプルコ(メキシコ有数のリゾート地)へ行きます。
浮気だけならまだしも、けっきょくは離婚して4人の子どもの養育費すら払いません。
おまけにクレオが破水して緊急に病院に運ばれたときそこにいて、元妻にばれるのがいやなのかウソをつき、クレオに「あいている分娩室はない」といいます。

ソフィアの4人の子のうち、末っ子のモデルがキュアロンなのだとすると、幼い頃に父親に捨てられた彼は、
「大人の男」というものに不信感をいだいているようです。
(もちろん、今はその彼自身が「大人の男」なわけですが)

けっきょく娘を死産してしまうクレオは、その後急に無口になるのですが、彼女の胸を痛めているのは、「娘の死」そのものというより、
「生まれてこなければいい」
と一瞬でも願ってしまったことなのでした。
こうした繊細な心情が、大声ではなくひかえめにえがかれていきます。

クレオがソフィアと4人の子といっしょにビーチをおとずれたとき、娘の死を願ってしまったことを告白し、ソフィアたちが、
「私たちはクレオのことが大好きだよ」
と慰めるシーンでは、胸にじーんと来てしまいました。

雇い主のソフィアたちは白人で、オアハカ出身のクレオは時おりミシュテカ語も話す先住民です。
そのうえ雇い主と召し使い、という厳然たる身分の差もあります。
ですが、“絆”というものは人種や身分の差をこえて存在できるものなのだ、とあらためて感じさせられます。


これも「売れる映画」の法則にのっとったものなのでしょうが、さいきんの日本映画のパターン化した恋愛もの
(恋人が病気で死んでしまう、といったような)
によくある、「さあ泣きなさい」という感じのお仕着せの感動ではなく、あとからじんわりと包んでくるような感動がそこにはあります。

さいきんの日本では、なんでも「効率化」がいわれていますが、
(たとえば政府が現在すすめている、「短期間で成果のあらわれる学問分野」への大学予算の集中など)
「感動」までもが効率化され、「早く確実に泣ける」といったことを売りにする映画が増えているのは、どうなのでしょう。

その点、今回の映画は「効率的な感動」とはまったく無縁で、もっと心の芯のほうに、しずかに語りかけてくるような気がしました。
僕がメキシコシティに思い入れが強い、という点は割り引いてかんがえなくてはいけないのかもしれませんが、僕自身、ここ数年に見たなかでもっとも感銘をうけた映画のひとつです。

ただ、こうした地味な映画は守谷のようなイナカ(失礼)にはハードルが高かったのか、夜8時からのレイトショーとはいえ、観客が僕一人しか(!)いませんでした。
イオンシネマではもう終わり(一人しか観客がいないのではとうぜんですが)のようですが、渋谷のアップリンクではまだやっているようなので、僕はもう1回見にいきたいと思っています。


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★★★★⋆
ホシ4つ半です。


観覧日:2019年4月11日(木)





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この記事へのコメント

2019年04月13日 00:41
こんばんは。

『ROMA』、今イオンで上映してますね。
観に行かれたんですね。
私はネットフィリックスで、アカデミー賞の前に観ましたよ。
家ニスタ
2019年04月13日 15:16
トトパパさん、こんにちは。
すごい! 受賞の前に見られたんですか、さすがですね。
僕は受賞の前には、タイトルだけではどういう内容の映画かわからなかったので、観ようという気が起こりませんでした。
もっとも、ネットフリックスの会員になる気は、今のところないのですが・・・。
いつもコメントありがとうございます。
2019年04月13日 17:33
吉祥寺パルコの映画館で、
この映画を観たという方のブログ
記事で、この作品の事を知りました。
そのブロ友さんも、白黒映像の
美しさを絶賛されてましたが、一方で、
こんな地味な映画がアカデミー賞を
よく獲得できたと、少々疑問が残ってました。
なるほど、ネット配信で日の目を見た
映画だったんですね。売れる事を考えずに
自由に映画を作りたい監督にとって、
これは朗報かも知れません。
家ニスタ
2019年04月14日 10:51
yasuhikoさん、おはようございます。
僕はモノクロ映画が好きで、ジム・ジャームッシュの一連の映画やおなじメキシコの『ダック・シーズン』など今まで見てきました。
ですが、それらの中でも今回の映画は群を抜いて美しい映像だと思いました。
ヘンな話ですが、「モノクロ映像に色がある」といったように感じました。
ネットフリックスでは興行収入を考えずに映画を撮らせてくれたようで、これからはネット配信もひとつのやり方かな、と思います。
ただ、それで一定の評価を得た作品は、やはり劇場で公開してほしいですね。
僕は大スクリーンで見たい派なので。
いつもコメントありがとうございます。

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  • ROMA/ローマ

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